一瞬でも良い 同士に愉しんでもらえるならば。 そんな想いを集めたオトメイトブランド二次創作ブログです。
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13. 見返りを求めない言葉 朱音。さま 【朱色の刻】
緋色の欠片 遼×珠紀
時は夕暮れ。
耳に届く蝉しぐれ。
今の時刻を知らせるように、ちりんちりんと音を奏でる風鈴は、日中よりも明らかに大きく横に揺れていた。
肌を撫でる風に、僅かばかりの熱気が残り、火照った体を冷やしていく。
「…おい」
真横に開かれた飾り気のない障子と障子。
その中央に立ちながら、遼は室内…いや、室内に居るはずの少女へと声をかけた。
しぶしぶながらの受験勉強。
遼と二人では危険だと全力で訴えていた美鶴を、危険な目にあったら呼ぶという約束でこの場から去らせ、二人きりの時を手に入れた。
触れたのは数回。
口説いたのも数回。
けれど、頑として勉強を譲らなかった珠紀に根負けしたのは遼が先で。
…いや、二人きりの穏やかな時も、悪くはないと、解っていたから。
ゆっくりと山の向こうに消えていく太陽。
目では確認できぬほどの緩やかな時間。
それでも、確実に一歩一歩夜へと近づくソレは外どころか、室内の影も増していく。
席を立ったのは数分前。
さして時は経ってはいない。
それなのに、濃くなる闇。答えのない声に。
「珠紀」
一瞬、この場に居ないのかもしれないと思ってしまった。
硬くなる声。とたんに、早くなる鼓動。
それが何故なのか…は、遼自身気が付いていた。
これは、恐怖…だ。
何が起きたわけじゃない。
ただ、少女の存在を見失った。それだけで。
赤の瞳を巡らせて、濃くなる影の向こうを見やる。
中央には机が一つ。
机を挟み、座布団が三つ。
机の上には、麦茶が半分ほどのグラスが残され、それが、遼がこの部屋から出た時から変わっていない事を確認する。
ミシリ
踏み出した途端に音を立てる畳。
やはり、赤い瞳に机の向うは映らず、焦ったように瞬いて。
「……っ」
踵を返しかけた所で気が付いた。
瞼を閉じ。
耳を澄まし。
「………おい」
再度紡ぐ声に応えはなく。けれど…
みしり
更に、畳が音を立てた。
見失ったのは一瞬で。
疑ったのも、一瞬で。
ミシリ みしり ミシリ みしり
進む足は歩みを止めず、ようやく見えたその姿を瞳に移す。
投げ出された両足。
見えていなかった座布団の最後の一つを枕にし、心地よさそうな寝息と幸せそうな寝顔。
恐れる闇に身を委ね。
完全に寝に入っているその態勢は、明らかに遼がこの部屋から出て行った後、本能のままに寝たことを示していて。
「……珠紀」
囁くように名を呼んで。
しゃがみ込むと、おそるおそる指を伸ばす。
茶色の髪。
白い頬。
閉じられた瞼の淵。
鼻先。
唇。
肌を撫でる、吐息。
とたんに体から抜けた力。
普段の遼を知るものならば、想像もつかないだろう、情けない姿の今の自分。
だが…
「………珠紀」
その音しか知らぬように言葉を紡ぐ。
触れるのも、抱きしめるのも、口づけを交わすのも、少女を求め、閉じ込める事すらも。
「…遼?」
「………」
余裕のある姿で余裕の無い己自身を誤魔化して。
「誘っているのか?」
上滑りする言葉。
伸ばされた少女の手は遼の頭をぽむりと叩き。
「寝ちゃって、ごめんね?」
「………」
紡がれた音に、相手を、強く、抱きしめた。
「…珠紀」
もし、もしもだが。
突然一つの単語しか、告げる事が出来なくなったとしたならば。
「………」
自分は少女と出会ったその時に、既に言葉を決めていた。
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更新履歴
2013/01/27
雪実さま【27.傍の、】アップしました。
2013/01/21
カテゴリ名をタイトル名にしました。
2012/03/31
弥月しのぶ【01.初めて笑顔に出会った日】アップしました。
2011/09/01
愛さま【20. 手を伸ばせば、届く距離】アップしました。
2011/05/16
バナーを2点アップ。
記事【愛シ記憶 企画概要】よりお持ち帰り下さい。
2011/05/05
公開開始。
朱音。さま 【13. 見返りを求めない言葉】アップしました。
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